広沢池の保全管理を考える

先日行われた、広沢池の今後の保全管理のあり方を考えるワークショップ(京都市主催)に参加し、その歴史的風土(風致)の成り立ちやその本質的価値について講演をさせていただきました。

それに先立ち、久しぶりに広沢池周囲を歩きました。たまたま、隣接している新興宗教系の教団の聖地とされている平安郷の一般公開があり、敷地内部の見学をしましたが(ここ数年毎年桜、新緑、紅葉の時期に一般公開されているそうです)、遍照寺山や池、谷の水など周囲の地形環境を生かした広大な自然風景式の美しい庭が整備されていて驚きました。ウェブの情報によると2005年の春に整備完了されたようですね。この敷地は風致地区第一種・歴史的風土特別保存地区・市街化調整区域等の規制の網がかかっており、建設行為に対しては極めて厳しかったはずです。おそらくそのためもあって、和風の意匠や伝統的素材や工法など、かなり力が入った整備になっていました。特殊なケースとはいえ、最近の新しい整備なのに、まるで昔からそこにあったかのような風景に仕上がっていることに、景観規制・誘導の効果もあわせて大変興味深く感じました。

 

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時代の転換点

今,いろんな実務の仕事に関わる中で,都市や地域のあり方が大きく変わろうとしていることや,
プランニングのあり方を大きく変えなければいけない必要をひしひしと感じている。
それぞれ個々のトピックについてはよく言われていることではあるが,たとえば我々の専門分野に近いところでいうと,
超高齢化社会の本格化と人口減→地域社会システムの維持困難/持続可能なシステムの構築,
公共空間の民間活用の流れ→道路等の公共空間再編・活用,都市公園等の公共空間整備活用におけるPFIの推進,
気候変動と次世代の災害リスク管理→グリーンインフラの実装,土地利用政策の抜本的見直し,
モビリティ革命(シェア・自動化)→都市交通システム再編と土地利用転換,
観光革命(インバウンド,余暇拡大)→個性を際立たせる観光地デザイン
空き家・空き地増加問題→土地や不動産の所有と利用を分離した活用システムの設計
など。いずれも,ちまちました改良ではなく,抜本的な価値観の転換,政策の転換,システムの変革,が求められている。テーマやトピックごとに分けて要素ごとに考えてはうまく解けない。今こそ,予測とビジョンに基づいた総合的な大構想が必要である。

ありとあらゆる資源と課題をみわたしながら,地域ごとの最適解を見出す「デザイン」こそが地域再生の鍵となる。まさにプランニングが必要とされている。けれど,日本ではその社会的認知も低ければ,そうしたセンスを有する人材もかなり限られているのが実情。そういった分野をこえた仕事が殆どなかったから仕方ない。
しかし逆に,若い人にとっては,これまでの世の中の常識が通用しない,新たな理論と実践が求められていくわけで,これからの10-20年が,とてもやり甲斐のある,面白い時代になるとは思う。もちろん,そこに気づいている人,自ら動くことができる人に限られるけれども。
未来を想像し,どんどんインプットしないとすぐに感覚が時代遅れになってしまう。

因みに,今年はこれまでの努力が実り,2〜3の比較的重要なプロジェクトの立ち上げや設計に関われそうなので,そこでイノベーションを起こすことを目指したい。うまくいけば,いままでと根本的に違うラボ運営のありかたも可能性として出てくるかもしれないぞ,と思ってもいる。地域と空間を「デザイン」すること,これを実践する場をどこでどう立ち上げるか,を考えていきたい。

2017-2018

年の変わり目。1年を振り返りたい。

2017年は「切り口」を考える年だった。若手の勉強会や,いくつかのシンポジウムの企画,准教授になって担当が増えた講義,行政職員との勉強会,市民講座等でのレクチャーなど。目先にとらわれず,次の10年で何を生み出すか,どういう切り口で言葉にするか,を考える機会が多かった。

どこまでできるかはひとまずおいて,自分がなすべきことのオリジナリティというか,自分だからこそできることの「切り口」はみえてきた。研究レベルでは見えていたが,実践も含めて立ち位置がよりクリアに。また,今後10年の自分とまわりがどう動けばよさそうなのかも見えてきた。あとはどこまで実行=形にできるかどうか,だと思う。以下,備忘録的に。

○1人でやること
・地域のシステム・デザイン理論の構築,論文の執筆
・近代都市景観形成史研究,論文集の出版
・日本人の風景観の成り立ちの体系的整理,講義副読本の出版
・都市史・風景史の観点による文化的景観の読み解き →講義ノートの作成

○研究室でやること
・これまで進めてきた個々の研究テーマの深化・拡張
・文化的景観研究の方法論の新展開
・眺望都市・京都の研究,成果の出版
・プロジェクトの設計提案(地域デザイン×イノベーションの実践)

○研究会レベルでやること
・現代都市デザイン史的な「事例研究」の体系的蓄積,オーラルヒストリー調査,成果の出版
・景観政策・歴史まちづくり政策,デザイン協議に関する課題の官民勉強会
※これは,2人でも3人でいいからやる,ということなんだろうけど。

あらためて気づいたのは,いろいろな人の現場の話を聞くことの大切さ。
行政職員やプランナーやデザイナーの方々のご苦労を伺うことは,研究の位置づけを考える上でとても重要だ。今年は研究のテーマ上,行政職員の方々に数多くヒアリングさせていただいたが,世の中の本質的なことでも,論文にできないことは多々ある。研究者という立場で最も貢献出来ることはなにか,どう世に出し,巻き込むのがよいのか,は自分にとって重要なテーマ。

委員会活動が増え,実践活動もプロジェクトも本格化しはじめた(これはあまり話せないんですよね)。
いろいろあるが,しっかり形にしていきたい。
学内業務も大変になる中で,なかなか両立が難しいが,やるべき研究に時間がとれなくならないように何とかコントロールしなければと思います。

黒川温泉にみる造景の知恵

M1の寺島君と黒川温泉の公共空間における修景の経過と技法について調べています。
ここには全国のモデルになり得る、さまざまな知恵が隠されていると考えています。
先日、黒川温泉で寺島君と勉強会に参加し、成果の中間発表をしました【研究室ブログ】。

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さて、僕がはじめて黒川温泉に来たのは2004年で、景観の勉強をしはじめた頃でした。
このときは南小国町で3泊しました。当時の僕は「渓流沿い露天風呂」に夢中で、
山みず木」さんをはじめとする黒川温泉の露天風呂や「藤もと」さんの露天風呂に
どうしても行きたかったのです。その後も全国の渓流沿い露天風呂は結構まわりました。
黒川にも何度か来ました。

そもそも、そういう趣味!?をもったきっかけは、
1999年(大学1年)のボラカイ島旅行と、1999年、2000年のバリ島・ウブドのリゾート体験がきっかけです。
ボラカイ島は今では有名ですが、当時はバックパッカーしか知らない秘境だったようで、
マニラで1泊して飛行機を乗り継いで、長距離バス+舟でしか行けないとても不便な場所でした。旅行者もバックパッカーが多くて、ビーチ沿いのレストランやお店の雰囲気が手作り感があって、アットホームで最高でした。いまはどうなんだろう。
同じく、文化芸術の村であるウブドもまだあまり観光化が進んでおらず、まだ素朴な農村の雰囲気がありました。
そこで、はじめて泊まったコマネカリゾートのインパクトが大きかったですね。


あと、泊まってはいないけど、チェディとか、イダなんかの景観デザインに
強烈な憧憬を抱いたんですよね。
思えば、この道を目指す重要なきっかけの一つだったと思います。

日本でも、と思って知ったのが、黒川温泉でした。
それから十数年たっていますが、何度か訪れ、その景観づくりの技法の巧さが
理解できるようになったので、ぜひ研究したいと思っていました。まずは公共空間を、と。
旅館の庭は、京都の寺院・別荘の庭や露地と似ている部分もありますが、やはり違いますね。
雑木の庭なので、古典的・伝統的ではなく、近代的な自然観による、自然風のよさがあります。
視覚だけでなく、体全体で味わうのも特徴のひとつ。
黒川では旅館の敷地に閉じずに温泉街に自然がにじみ出しています。

たとえば、ということで、旅館 山河さんの庭を紹介します。
この雑木による造景の考え方は、黒川全体の造景の考え方をよくあらわしています。
詳しくは論文を乞うご期待。

(写真はクリックすると高解像度のものになります)

この木々が、ここ四半世紀にすべて人の手で植えられたもの、だなんて信じられますか?
一度その空間を体験すると、にわかには信じられません。
昔の写真をみせていただくと、確かに庭がない・・・。昔は杉しかなかったそうです。
敷地のなかを流れる遣水も、昔はコンクリート張りの水路だったそうで。

ご主人は、このお方↓。インタビュー、すごく面白いのでおすすめです。
http://www.obt-a.net/web_jinzai_magazine/person/2007/10/post-31.html

日本という風土での風景づくりの可能性をすごく感じます。

早稲田まちづくりシンポジウム

早稲田まちづくりシンポジウム2017、【地域の持続のかたちを考える−千年を生き続けた知恵を活かし、ふるさとの暮らしを未来につなげるために−】に、セッションのコーディネーターとして参加しました。
http://www.toshiforum.arch.waseda.ac.jp/sympo.html
セッション1は、石川先生、二井先生、稲葉先生のおかげで、質の高い討議になりました。
シンポ全体も、多くの示唆があり、今後の勉強の励みになりました。

さて、セッション1の趣旨説明は予稿集に掲載されましたが、その下書きは長すぎてカットしたので、ここに掲載しておきます。
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生きた資料としての地域をどう読むか

                  山口 敬太(京都大学)

1.資料としての地域
 地域は生き物であり、その「環境のかたち」としてのランドスケープは、読み解くべき資料(ドキュメント)であり、アーカイブである。そこには、数百年から千年の時間単位で、固有の自然条件のなかで育まれてきた地域に独特の生き方、住み方、暮らし方が、まさに形となってあらわれている。こうした資料から、現代を生きるわれわれは何を学べるのか。それをどのように読み解くのか。読み解いた結果をどう活かすことができるのか。セッション1「環境のかたち」ではこれらを主題として取り上げ、議論を深めたい。

2.「地域らしさ」を捉える
 地域は時代とともに変わる。しかし、ある地域が、その「地域らしさ」を保って持続するとはどういうことなのか。その地域らしさを失わない変化の「許容量」が仮にあるとするならば、それはどのように見出されるのか。いずれにせよ「地域らしさ」は地域の持続を考える上での重要な指標となる。
 カルチャル・ランドスケープの保全の文脈では、ランドスケープの歴史・文化的キャラクターをめぐる議論が活発である。その観点は、土地利用や地割・敷地構成、町並みや個別要素(形態・素材)などのランドスケープの物理的・視覚的特徴にとどまらない。ランドスケープの要素間の関係性や相互作用、機能とその連関やシステムとしての読み解きが試みられている。たとえば、
・自然条件とその活用形態(地形、水資源と集落の立地・形態など)
・生業・生活インフラの構造(水系、道、交通など)
・危機管理のシステム(災害防備など)
・景観をつくる技術(建設、材料加工、農業土木などの技術)
・コミュニティを支える慣習・文化(祭りなど)
などの観点から、ランドスケープを成り立たせる仕組みを読み解くことで、その固有性を浮かび上がらせることができる。まだまだ多様な価値の捉え方、読み取り方があるだろう。
 また、地域はそこに長く住む住民にとっては特別な存在である。「地域らしさ」はそこに暮らす住民によって認識される。そこに住む人々の認識やアイデンティティの議論なしには地域の問題は捉えきれない。実際、それは地域の持続にも大きく関わる。たとえば、生業・生活・生計の記憶(個人の記憶/社会的に共有されるコミュニティの記憶)は、住民の地域認識や地域愛着に大きく関わると考えられる。このような記憶と、それらを想起させる空間や過去の痕跡も、「地域らしさ」を考える重要な手がかりとなるだろう。

3.地域の持続のありかたを考える
 今現在かろうじて存続している、地域の生き残りの仕組みや知恵、そこにある個性(地域らしさ)を読み取ることから、いかにして地域の持続へと結びつけられるだろうか。セッションでは、地域の持続を支える新たな社会的仕組みのありかたについて、議論を深めたい。
 私見だが、ある地域に暮らす人々にとって、その地域の記憶・歴史とともに生きることは、その地域に「住み続ける理由」となり得るのではないか、と考える。「わたしたち」の地域というアイデンティティが強ければ、それはコミュニティや住民個人のアイデンティティを支え、地域の維持・再生活動の源となり得るだろう。とすると、「地域らしさ」は地域の持続を支える柱となるのではないか。地域らしさのなかに潜む、生きた証、生きる知恵は、これからもそこで暮らす人々にとって、かけがえのない遺産なのである。
 では、専門家の役目は何か。「地域らしさ」を探り、読解し、記録や説明をし、地域らしさに対する認識を高めることであろう。それは既にそこにあるのではなく、知的活動によって見出されるものである。さらに、地域が持続するための課題や脅威を把握し、それを人々と共有するとともに、今後の地域が存続する可能性と具体的な方向性を探り、地域らしさそのものをより高めていく。そして、できることから実践する、ということであろう。これらのための専門技術の高度化が期待される。

2016-2017

賀正
年が明けた。とはいえ、昨年中に締切の仕事をいくつか持ち越してしまっていて、
まったく気持ちが時間の流れに追いついていない。
区切りをつける意味でも、備忘録としても、一年の仕事を振り返っておきたい。

2016年は依頼原稿や報告書の執筆が重なり、締切に追われるように過ぎてしまった。
ざっとあげると都市基盤史研究会の成果本の論文、コンペガイドラインの事例編、某事典の記事、
伊庭の文化的景観調査報告書、造形大の庭園学講座本、堺の講演録本、そして論文数本。
何が大変かというと、書くために勉強をしなければならないことだ。
ま、でも勉強は楽しい。知れば知るほど楽しいものだし、新たな研究テーマの発掘につながる。

一方で、査読編集委員の仕事が重なり、十数本の査読をとりまとめることになった。
査読判定を自分が書くのもさることながら、大量の査読判定理由書を見ていると、
論文の落ち方が分かる。非常にいい勉強になった。

土木計画学50周年事業(4回分のシンポジウムの企画と資料作成)での企画幹事の仕事も有意義だった。
http://www.jsce-ip.com/events/50years/finished.html
学会の歴史を知り、幹事メンバーと議論を深める中で、社会の中の学のあり方を深めて考えられた。
先人がどういうことを考えて、学を確立していったのか、という経緯をなぞったこと、
そして今を生きる研究者たちが何を考えているか、を知ることで、
自分たちがこれからの学のあり方をどう確立していくべきか、を学べたのは大きな成果だ。
そして、それは若手研究者の会の立ち上げとそこでの議論へとつながっている。
50周年事業の仕事がなければ、この動きは思いつくことはなかったと思う。

また、春には中村先生を招いての勉強会で、君たちにバトンを渡しにきた、という
重い言葉とともに、きわめて鮮烈で鋭い切れ味の原論に相当の刺激を受け、エネルギーをもらい、
それ以降、講義ノート案の骨格をつくる作業をしている。
夏と秋を越えて、ノートが少しずつ充実し、景観学の新しい体系が自分の中でおぼろげに見えてきた。
これは2017年に議論をして、しっかり固めていきたい。

実践・調査系でいうと、夏休みを捧げた11日間の宇治茶の集落調査を通じて、
また、伊庭の景観の「本質的価値」を、地理学や建築史学、農学の先生方と議論する中で、
景観を価値づけるためのいろいろな観点や切り口を学ぶことができた。
これまた、かなり奥が深くて面白い。だけどいろんな知識を前提にした複雑な知の構造になっているので、
きわめて分かりにくい。しかし社会科学における知とは単純なものではないのだろう。
ちなみに、若い人には、wikipediaで調べられるブツ切りの断片的知識ではなく、
一言では語れない、教養に根ざした深く広い理解に基づく論立てをこそ、勉強してほしいと思う。
自分もそれをうまく調査研究手法として固めていきたい。

また、コンペのデザインガイドラインの仕事でも、どのような枠組みで事例分析を進めるかなど、
とりまとめ作業がいい経験になった。事例研究、その方法論の確立も重要な仕事だ。

まあ、とにかく日々勉強、勉強で、いつまでたっても勉強すべきことは減らないというか、
むしろ増えていく。いかに自分が無知であるかということを思い知らされてばかり。
しかし、最先端の議論はいつも知的に刺激的だ。
自分はやはり考えることが何より好きなんだということにあらためて気づいた1年だった。

で、2017年をどういう年にするか。
いろんな意味で、「転換」の年にしたいと考えている。
分野における景観学のあり方、をしっかりと見越して、
研究室の研究活動も舵取りをしていかなければならないし、内外の人材育成も進めたい。
そして過去10年の積み上げをもとに、今後5−10年を方向付ける年にしたい。

今年も「考える」年にはなりそうである。

計画学と景観・デザイン・歴史

土木計画学2016年春大会「土木計画学50周年若手セッション」(2016年5月29日)にて
発表を行いました。今後の議論を呼び起こすためにも、講演録全文書きおこしを掲載します。
まだまだいい足りない事や、議論が必要な点も多いです。
メール等にてコメントいただければ幸いです。

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「景観・計画・歴史研究のフロンティアと実践」    山口敬太(京都大学)

はじめに
欧米では交通と都市デザインが一体的に進められるなど、EngineeringとArchitectureの関係が密である。欧米ではアーバンデザインやランドスケープデザインが職能としてしっかり確立していて、専門職大学・大学院による実践教育が充実している。そこでは徹底的なスタディオ演習が行われ、またプロジェクト型のリサーチがさかんに進められている。フランスでは、景観専門のグランゼコール、エリートのための専門職大学院まである。
日本に景観分野が必要とされたのは、土木分野にArchitectureを根付かせるためだったと考えるが、この種の実践教育は全く十分ではない。現状は、研究室単位の小規模な実践教育を進めながら、学術研究を進める、という、やや中途半端にならざるを得ない状況にある。
下記は私の考える景観・計画・歴史研究分野のフロンティアの見取り図である。

計画学2016景観フロンティア1-4

1.コアとフロンティア
景観分野は、実践から始まっているが、当初から、一つの基礎的学術体系に依っているわけではない。実践また総合のために、さまざまな学問的知見を複合して、体系化してきた 。その求心力の中心は原論、景観論・都市論であろう。分野の研究の柱は、当初は「空間評価・手法」「デザイン技法」「歴史」であった。近年は、主題も広がりを見せていて、ここ10年の国内の主要査読付論文をみてみると、842本/10年あるが、土木204本、都市計画184本、建築211本、造園243本という状況である。(※キーワード検索:「景観」、2006-2015年)広い分野にまたがり、その規模も大体同じ程度である。

2.景観・空間評価について
当初は視覚分析が中心であり、これらは今は景観アセスメント指標として定着した。今も、人間が体験する空間の質を、心理やイメージ、人間の行動の関係から評価することは重要なテーマである。また、近年では地域や場所への愛着などのテーマが掘り下げられている。
一方で、空間の評価の視点というのも変わってきており、いわゆる個人の評価にとどまらず、その空間がどのような人の関わりによって成り立っているのか、という主題が扱われつつある。
地域主体による空間管理や、コモンズとしての景観・場所の成立要因、ローカルガバナンスのメカニズムを、さまざまなアプローチで解明する事が重要なテーマになりつつある。
空間情報の活用も発展性のあるテーマだ。レーザー測量など、道路を中心に、インフラや都市空間の管理のための3次元空間情報のデジタルデータが整備されつつある。ミクロな空間データが都市全体でとれるようになるので、これをどう活用するか、ニーズを掘り起こして手法を開発していく必要がある。

3.歴史研究について
欧米でも日本の建築でも、デザイン教育のなかで、歴史研究は非常に重要視されている 。研究テーマについては、従来の事業史、行政史、技術史的研究から展開して、近年では、空間と社会をめぐる「しくみ」を明らかにするような、いわゆる社会学と歴史学が重なるようなアプローチへと高度化している。
ただしここで、フロンティアとして挙げたいのは、「土木計画史」という研究テーマである。歴史的検証は学問の正当な評価・検証においてきわめて重要だ。京大景観研では、日本最初の都市計画講座になる京大土木の都市計画講座初代教授・武居高四郎(米谷先生の恩師にあたる)に着目して、都市計画における「交通計画」概念の移入がどのようなものであったのかについて研究をはじめている。
交通や土地利用施策と都市形成の関係を検証する。また、国土計画、地方開発の歴史や、計画技術の果たした役割、その政治や合意形成の歴史を探ることは、関係者の方々へのヒアリングも含めて、記録と研究を同時に進めておかなければならない。しかし、当然ながら、歴史学として通用する高度な研究能力が求められる。

4.景観保全について
景観保全は、ここ10年で実務上大きな展開を見せている。特に文化的景観という文化財のカテゴリの創設が、景観の調査研究の専門性を高めている。景観の保全のためには私権を制限する必要があるが、そのために地理、歴史、建築、農学、民俗学などの専門家と、調査・議論を深めながら、景観の価値を、裁判資料をつくるかのごとく論証していく必要がある。そしてその価値に基づいて、景観計画を策定する。そこでは凍結保存的アプローチがとられるのではなくて、あくまで、生きた生活・生業のシステムをどう支えるのか、が計画課題となる。
重要なことは、この専門的な調査と計画のアプローチが一般化し、地域の、何気ない、生活・生業に根ざした地域性を評価する動きにつながっていることだ。景観10年、風景100年、風土1000年という名言があるが、長い時間軸上の、地域の環境と風土の遺産を、暮らしや文化の視点でトータルにとらえて、ボトムアップ的に(ときに観光の力も借りながら)支えるような地域づくり、歴史まちづくりが求められている。ここでも当然ながら、学術調査として通用する強い専門性が求められる。しかし、まだまだこの調査研究が出来る研究者は土木分野では限られている。

5.空間デザインの実践研究について
景観設計技法については、学会発行の景観設計事例集、国の景観形成ガイドラインへと展開し、都市整備のほか、道路、河川、海岸、港湾、砂防などのガイドラインが国から出されて、一定の成果を出した。一方で篠原修先生を中心に、実際の土木施設のデザイン、特に連続立体交差事業を契機とするような、駅周辺の拠点整備とデザイン調整が、市民参加も含めて数多く進められてきた。
空間デザインに関わる専門家と地域の協働は近年進んでいるが、そのなかで都市戦略上、どのようにトータルに都市空間の質を高めるか、というのが重要な課題になっている。たとえば松山ではアーバンデザインセンターがつくられて、まさに先駆的取り組みが進められているが、いわゆる社会基盤整備における空間の質の創出と、デザインのための協議、調整、マネジメント、それらの実践知の理論化、概念化、が重要な課題となっている。
また今後は、現行の都市再生のエリアマネジメントの枠組みが拡張されていき、都心だけでなく地域拠点、郊外や農地などにも展開されていくと思われるが、そこで法人や協議会などの空間形成に関わる地域の主体が、その役割を広げて、ますます重要になっていくと思われる。そのなかでの専門家との協働、特に都市や地域の「戦略」にのっとった空間計画の立案や、そのための合意形成の方法、などの実践知の蓄積がますます必要になるだろう 。実践を担う研究者は、実践を理論化するための仮説的フレームを常に持ち、クリアな概念化を目指すことが必要だ。
また、そうした総合的な空間像を描くにあたっては、デザインオリエンテッドの、もしくは価値創出を目的とするための技術が必要だろうと思う 。空間デザイン発想の、交通や防災、観光や環境などとの融合テーマに可能性があると考える。

おわりに
さて、フロンティアのテーマをあらためて眺めてみると、景観というキーワードが少ないことが分かる。既存の景観分野の(特に若手の)研究者は、「景観」という枠から抜け出して、他領域の強い専門性、方法論を身につけて、研究と実践を展開する必要がでているのではないか。テーマはたくさんあるが、何より重要なのは、研究の水準や議論のレベルを上げることだろう。他分野も、であるが、土木計画学のプラットフォームが 、今後、分野横断の実践と研究、協働を広げ、育てる場になればと思う。

(以上)

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